「クラシックが聴ける、おしゃべりは原則禁止の喫茶店が渋谷にある」
専門学校を卒業して間もない頃、渋谷界隈のオシャレなお店に詳しい友人から、そう聞いたことがあった。
当時20代前半の私には未知の場所で、勝手にミステリアスな空気を感じ気になってはいたものの、なんだか敷居が高く感じられた。
それに、会社が渋谷だからいつでも行ける、となかなか行く機会がなかった。
それから10年近く経ち
相変わらず渋谷で働いている。
仕事が忙しく、自分の時間がなくて、そろそろゆっくりしたい!!
と思ったそんなとき。
ふと、この「名曲喫茶ライオン」に行ってみようと思い立った。
定時後、気合いを入れて、いざ!
住所は、道玄坂の先の円山町近辺。
想像してはいたけど、道玄坂を登り切って脇道に入るとやっぱり、ギラギラした黄色やピンクのネオン煌めく、いかがわしいお店がいっぱいだ。
その先に、渋谷の街にあるとは思えないレトロな建物がひっそりと、しかし堂々と存在していた。
そこがまさに「名曲喫茶ライオン」だった。
扉の奥は薄暗く、様子が見えない。。
ひと思いに扉を開ける、、、
暗くてよくわからない。
店員さんも来ないし
そもそも、店員さんがどこにいるのかすらわからない。
視線の先に、照明に照らされた階段があったのでとりあえず上ってみる。
と、
後ろから誰かが付いてくる。。!!
店員さんだった。
歴史を感じさせるとてもお洒落なプログラムを渡され、読んでみると、毎日15時と19時に演奏が始まるとのこと。
2階は1階より明るく、青白い照明。
劇場のようになっていて、席は皆同じ方向を向いている。
しかもお客さん同士、視線が合わない造りになっているのだとか。
座った目線の先、
そこにあったのは1階からそびえ立つ立派なステレオだった!!
舞台を観に来たような、優雅な気分。
気品があり、この空間に居られることを誇らしくさえ感じる。
我に返ると、大音量でクラシックが流れていることに気づく。
しばらく重厚な雰囲気に圧倒されていると、さっきの店員さんがウィスパーボイスで注文を聞きに来てくれた。
ミルクコーヒー570円を注文し、ホッと一息。
やさしく、とても安心する味だった。
モダンで美しく、どこか温かみを感じる店内を見渡して、明治から90年続く歴史を感じながら、美しい音色を全身で吸収した。
気を抜いていると、流れている曲が急に盛り上がったときの音量差にビックリするので、注意が必要だ。
リクエストも受け付けているらしく、曲紹介の前に驚くほど低いトーンのアナウンスがボソボソと入る。
重厚な雰囲気に合わせてのことなのかもしれないが、ちょっとだけ不気味だった。
声の主はやや長髪でタートルネックのハンサムなお兄さんだったが、もしかしたらこの人は…少し前の時代からタイムスリップして来たのかもしれない。
ぼんやりそんなことを考えていると、この空間だけ当時のまま時代が止まっているのでは?!とも疑ってしまう。
1時間ほど堪能したのでお会計をしようと階段を下り、今度はステレオの近くにいた店員さんに必死にアイコンタクトを送った。
1階の席には、団塊の世代と思われるサラリーマンや、Macを使いこなす白髪のおじいさんが、思い思いの時間を過ごしていた。
ドアを開けると、渋谷の喧騒とネオンの明るさに目がくらむ。
一気に現代に引き戻されたが
極上の時間を過ごし、とても気分が良かった。
クラシックは詳しくないけれど
次に来る時までに少し勉強して
リクエストしてみようかな?
また疲れたら
タイムスリップしに来よう。